チェコにおけるSF・ファンタジィの人気作家ベスト100
・順位はSFとファンタジィ書籍のデータベースLEGIEの利用登録者によるトップ10作家投票(一人につき十
人まで投票可能)に基づいている。カッコ内の数字は投票者数 (掲載データは2016年10月15日現在の
もの。その後、投票者の増加とともに順位の変動がある)
・チェコ人作家はわかりやすいよう、名前の背景を黄色にし、簡単な紹介をつけた。
・チェコ人以外の作家で、日本でも翻訳が出ているにもかかわらずNeklanが不勉強のため名前に憶えがな い者も備忘録を兼ねて紹介文をつけた。
・なお、掲載作家(チェコ人に限らず)の日本における紹介の確認は翻訳作品集成 http://ameqlist.com/
を参照させていただいた。記して感謝します。ありがとうございます。
001. J・R・R・トールキン (496)
002. アンドレイ・サプコフスキ (447)
日本では「エルフの血脈」(訳 川野靖子・天沼春樹 ハヤカワ文
庫FT)が出ているポーランドの作家。(註.名前はポーランド語読み
ではアンジェイだが、日本で出版されている本の表示に従った)
003. テリー・プラチェット (360)
004. イジー・クルハーネク (319)
Jiří Kulhánek 1967-
現在のチェコで最も人気のある作家。吸血鬼、サイボーグ、特殊な
格闘技を身につけた戦士が主人公の、スピーディな展開のアクショ
ン・シリーズで高い支持を得ている。皮肉なユーモアと暴力描写は
クエンティン・タランティーノと比較されることが多い。吸血鬼ものの
【ナイトクラブ】 Noční klub シリーズやゾンビものの【血の旅】Cesta
krve シリーズなどが代表作。
005. スティーヴン・キング (235)
006. ジョージ・R・R・マーティン (224)
007. ミロスラフ・ジャンボッフ (219)
Miroslav Žamboch 1977-
放浪の騎士コニアーシュを主人公にしたファンタジィ・シリーズ【コニ
アーシュ】Koniášが人気。アクションものを得意とする。原子力と物
理のエンジニア養成の専門学校を卒業し、現在も原子力発電関係の
会社に勤務している。趣味は柔道、マウンテン・バイク、軍事技術研
究、刀剣の収集等。
008. アイザック・アシモフ (192)
009. スティーヴン・エリクソン (191)
【マザラン斃れし者の書】の作者であるカナダの作家。
010. ニール・ゲイマン (168)
011. レイモンド・R・フィースト (166)
012. アーサー・C・クラーク (142)
013. J・K・ローリング (139)
014. フランク・ハーバート (133)
015. セルゲイ・ルキヤネンコ (130)
映画『ネイト・ウォッチ』『デイ・ウォッチ』の原作者。ロシア人。
016. デイヴィッド・ジェメル (126)
ファンタジィ【Drenai】シリーズが人気のイギリスの作家(1948-2006)。
日本では未紹介?
017. ダン・シモンズ (119)
018. ユーライ・チェルヴェナーク (118)
Juraj Červenák 1974-
スロヴァキアの作家。90 年代半ばから複数のペンネームでハワード
の【コナン】シリーズのパスティーシュを発表。他に【魔道士】Černo-
nokněžník や【黒のローガン】Černý Rogan 等のシリーズがある。
019. フィリップ・K・ディック (115)
020. ダグラス・アダムズ (108)
021. オースン・スコット・カード (87)
022. ロジャー・ゼラズニイ (84)
023. デイヴィッド・エディングズ (80)
024. ロバート・E・ハワード (78)
025. ロバート・A・ハインライン (75)
026. H・P・ラヴクラフト (74)
027. レイ・ブラッドベリ (70)
028. ウィリアム・キング (66)
日本では短編「死者との再会」が「SFマガジン」に掲載(1992年6月
号 訳・金子浩)。
029. ロベルト・ファビアン (58)
Robert Fabian 1969-
2000年にミリタリーSF「マリーンズ Mariňáci」でデビュー。以後は
もっぱらミリタリーSFを執筆。覆面作家で生年以外わからないが、
軍の仕事についているとの話も。
030. マルクス・ハイツ (55)
ヨーロッパでは【ドワーフ Die Zwerge】五部作で人気のドイツの作家。
日本未紹介。
031. リチャード・A・ナアック (55)
「ドラゴンランス戦記」執筆メンバーの一人のアメリカ人作家。
ただし彼の作品が翻訳されているかは不明。
032. チャイナ・ミエヴィル (55)
033. クリストファー・パオリーニ (55)
映画化された「エラゴン」の作者。アメリカ人。
034. ジュール・ヴェルヌ (55)
035. ロバート・ホールドストック (54)
036. スタニスワフ・レム (54)
037. テリー・グッドカインド (52)
038. クライヴ・バーカー (51)
039. R・A・サルバトーレ (47)
【アイスウィンド・サーガ】(エンターブレイン)、【ダークエルフ物語】
(アスキー・メディアワークス)等の作者。
040. ヴラジミール・シュレフタ (47)
Vladimír Šlechta 1960-
代表作は第二次エネルギー戦争後、燃料が枯渇したヨーロッパを舞
台にしたアクションSFシリーズ【すべては火星に-オッゲルド】Vše-
chno na Mars - Oggerd や、人間・エルフ・ゴブリンの三者による戦
いを描いた【血のフロンティア】Krvavé pohraničí シリーズ等がある。
技術高等学校で水道工事の技術を学び、現在も水道設備工事の会
社を経営中。
041. デイヴィッド・ウェーバー (47)
【紅の勇者オナー・ハリントン】【反逆者の月】【セーフホールド戦史】
シリーズ等で知られるアメリカの作家。
042. エドガー・アラン・ポー (46)
043. サイモン・R・グリーン (43)
日本では「青き月と闇の森」(訳 冬川亘 ハヤカワ文庫FT)が出て
いる。イギリス人。
044. アルカジイ・ストルガツキー (43)
045. アーシュラ・K・ル=グウィン (40)
046. カレル・チャペック (38)
Karel Čapek 1890-1938
チェコスロヴァキアを代表する作家・ジャーナリスト・劇作家。SF作品
として有名なのは「ロボット」という言葉を作った戯曲「R.U.R」や小
説「山椒魚戦争」。
047. ジョー・アバクロンビー (36)
イギリスの作家。ローカス誌が選ぶ21世紀ベストファンタジー小説
長編部門(2012年版)で“The Blade Itself”が第16位に選出。
048. ペトラ・ネオミルネロヴァー (35)
Petra Neomillnerová 1970-
ファンタジィ作家・書評家。【魔法剣士ロタ】Zaklínačka Lota 、【魔女
の歌】Písně čarodějky、【女吸血鬼ティナ・サロ】upírka Tina Salo
等のシリーズで知られる。作風は暴力とセックスに満ちている。その
一方で2012年からは、122歳の少女を主人公にしたジュヴナイル・
ホラー【アメーリエ】Amélie シリーズを発表。現在まで三冊刊行され
ている。(第一作「アメーリエと闇 Amélie a tma」の紹介はこちら)
049. アリステア・レナルズ (34)
050. フレデリック・ポール (33)
051. ジョン・ウィンダム (33)
052. ハリー・ハリスン (32)
053. ニール・スティーヴンソン (31)
054. ボリス・ストルガツキー (30)
055. ステファニー・メイヤー (28)
映画化された【トワイライト】シリーズの作者。アメリカ人。
056. ジョージ・オーウェル (27)
057. ウィリアム・ギブソン (26)
058. シュチェパーン・コプシヴァ(26)
Štěpán Kopřiva 1971-
作家・脚本家・映画評論家。チェコ初のゾンビ・コメディ・ホラー映画
“Choking Hazard”(04年 監督マレク・ドベシュ)の共同脚本家とし
て知られる。コミックスの原作も執筆。
059. ブライアン・W・オールディス (25)
060. ロバート・ジョーダン (25)
061. ブランドン・サンダーソン (24)
【ミストボーン】シリーズの作者。アメリカ人。
062. オンドジェイ・ネフ(23)
Ondřej Nef 1945-
作家・評論家。出版社や新聞・雑誌の編集者として働く中、80年代半
ばから短編・長編を精力的に発表。以後、チェコSF界の代表的存在
となる。1990年に創刊のSF雑誌“Ikarie”創設者の一人。1990年か
ら1993年まで同誌の編集長を務める。評論家として1985年に発表
した「チェコSFに関する三つのエッセイ Tři eseje o české sci-fi」は
チェコSFの研究・提言の書として現在も高い評価を得ている。
063. ガース・ニクス (23)
【古王国記】シリーズ(主婦の友社)、【セブンスタワー】シリーズ(小学
館)の作者。アメリカ人
064. ルドヴィーク・ソウチェク (22)
Ludvík Souček 1926-1978
古代文明の謎や宇宙古代史等についての著作が多く、同様のテーマ
で有名なスイスのエーリッヒ・フォン・デニケンの作品をチェコ語に翻
訳している。1964年からSF小説を発表。同時代のチェコのSF作家
たちが大人のための社会改革の書として真面目な作品を発表してい
たのに対し、ユーモラスに満ちた作風であった。
065. マーガレット・ワイス (22)
トレイシー・ヒックマンとの共著【ドラゴンランス戦記】シリーズで知られる。
066. ロバート・アスプリン (21)
067. アン・マキャフリイ (21)
068. ロバート・シルヴァーバーグ (21)
069. クリフォード・D・シマック (21)
070. タッド・ウィリアムス (21)
071. ヤン・ハラーフカ (20)
Jan Hlávka 1979-
2002年から雑誌“Ikarie”に短編を発表。同誌に掲載された作品か
ら選ばれるイカロス賞を2005年と2007年の二回受賞。2013年に
ヤナ・ヴィビーラロヴァーJana Vybíralová との共著で、氷の惑星
アルゴルの皇族を主人公にしたデューン・タイプのスペース・オペラ
【Algor】の第一作「霜とゲーム Mráz a hry」を発表。2014年に第二
作「細い氷 Tenký led」が刊行。
072. J・M・トロスカ (20)
J. M. Troska 1881-1961
本名ヤン・マツァルJan Matzal。1920年代末に健康を損ない障害
年金受給者となり、1931年より小説を書き始める。1935年にヤン・
メルフォルト Jan Merfort の筆名で小説第一作を発表。以後、J・M・
トロスカとして主にSFを執筆。物理法則を無視したシンプルな勧善
懲悪の冒険物語で子供や若者から絶大な支持を得た。代表作は
1939年に第一作が発表された【ネモ船長】Kapitán Nemo 三部作。
チェコスロヴァキアを代表するイラストレーター、ズデニェク・ブリアン
Zdeněk Burian が手がけた表紙絵(右写真)も有名。
1947年の共産党による政権奪取後は作品を発表できなくなったが、
60年代、70年代になって遺稿が出版。その人気は現在までも続い
ている。
073. ダン・アブネット (19)
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の原作者の一人。
074. ニール・アッシャー (19)
日本では「超人類カウル」(訳 金子司 ハヤカワ文庫SF)が出て
いる。イギリス人。
075. ジョン・フラナガン (19)
【アラルエン戦記】(岩崎書店)の作者。オーストラリア人。
076. ブライアン・ラムレイ (19)
【タイタス・クロウ・サーガ】(創元推理文庫)で知られるイギリスの作家。
077. デイヴィッド・ブリン (17)
078. ダン・ブラウン (17)
079. マイケル・クライトン (17)
080. C・S・ルイス (17)
081. ロイス・マクマスター・ビジョルド (16)
082. ガイ・ガブリエル・ケイ (16)
083. ティム・パワーズ (16)
084. パヴェル・レンチーン (16)
Pavel Renčín 1977-
詳しい紹介は注目作家欄を参照。
085. パトリック・ロスファス (16)
【キングキラー・クロニクル】(白夜書房)の作者。アメリカ人。
086. ブルース・スターリング (16)
087. グレン・クック (15)
日本では「忌わしき者の城」(訳 船木裕 ハヤカワ文庫FT)が出て
いるアメリカの作家。他に短編「静かの海」が「SFマガジン」に掲載
(1990年9月号 訳・酒井昭伸)。
088. ローレル・K・ハミルトン (15)
【アニタ・ブレイク】シリーズ(ソニー・マガジンズ、ヴィレッジブックス)、
【妖精王女メリー・ジェントリー】シリーズ(ヴィレッジブックス)の作者。
アメリカ人。
089. ロベール・メルル (15)
090. ジョン・モレッシイ (15)
短編数編が翻訳されているアメリカの作家。
091. ハリー・タートルダヴ (15)
092. ティモシー・ザーン (15)
093. パトリシア・ブリッグス (14)
日本では「ドラゴンと愚者」(訳・月岡小穂 ハヤカワ文庫FT)、「裏
切りの月に抱かれて」(訳・原島文世 ハヤカワ文庫FT)が出ている。
アメリカ人
094. ラリー・ニーヴン (14)
095. テリー・ブルックス (13)
096. トレイシー・ヒックマン (13)
マーガレット・ワイスとの共著【ドラゴンランス戦記】シリーズで知られる。
097. フランチーシェク・コトレタ (13)
František Kotleta 1981-
2010年に吸血鬼と地球侵略を企む異星人の戦いを描いた【血の兄
弟団】Bratrstvo krve 三部作の第一作「きつい鞭打ち刑」 Hustej
nářez で長編デビュー。続いてスラヴ神話に想を得た、古代の神々
が現代に甦る「ペルーンの血」 Perunova krev を発表。血と暴力に
満ちたアクションSFの新鋭として、イジー・クルハーネクと並ぶ人気
作家。
098. レオナルド・メデック (13)
Leonard Medek 1962-
1990年代にデビュー。現在、チェコのファンタジィの主流となってい
る“剣と魔法”もののスタイルの基礎を築いた作家とみなされている。
ハワードのコナン・シリーズのパスティーシュの他、火星と木星の間
にあるアステロイド「アルヒペラゴス(多島海)」に旅する木製のヨット、
ルーネラウンドを描いたファンタジィ【アルヒペラゴス】Archipelagos
シリーズで知られる。
099. グレッグ・ベア (12)
100. C・J・チェリイ (12)
〔Neklan 一言〕
近年日本のSFファンの間で人気のグレッグ・イーガンやR・A・ラファティはもちろん、サミュエル・R・ディレイニー、ジェイムズ・ティプトリーJr.の名前など影も形もないチェコの人気作家リストです(チャイナ・ミエヴィルはさすがに入ってます) 。あと、60年代ニュー・ウエーヴの作家も入っていません。ロバート・ホールドストックなんて渋い作家が入ってるのはちょっと嬉しいですが。
今回、このリストを作成するにあたって、名前があるチェコ作家の紹介を作りましたが、それをお読みいただければおわかりのように、チェコでは「ヒロイック・ファンタジィ」「ミリタリーSF」「暴力に満ちたアクションSF(もしくはホラー)」、そして「シリーズもの」が人気のようです。
ですから、ゴリゴリのハードSFのイーガンや、アメリカのホラ話的なラファティのような作家は広い支持を得られていないのでしょう(短編しかチェコ語に翻訳されていないラファティはともかく、イーガンの長編はそれなりに出版されています。まあ、あと、ラファティのユーモアはチェコ人の好みにはブラックさ、シニカルさに欠けるのかもしれません)。
個人的には「チェコではSFよりもファンタジィの方が人気」だということが改めて確認できました。正直言って、チェコ作家の紹介を書くために作風等を調べていて、「またミリタリーSFか」「またヒロイック・ファンタジィか」「また吸血鬼(or ゾンビ or 傭兵)か」とウンザリすることが多かったです。とはいえ、一人だけ「読んでみよう」と興味を覚えた作家を新たに見つけましたので、それは収穫でした。
皆さんはどのチェコ作家の作品を読んでみたいと思いましたか?
補遺.ストルガツキー兄弟が一人の作家ではなく、別々に扱われているのはデータベースの性質上、仕方のないことなのでしょう。それと、投票者数が同じでも順位に違いがあるのは、新たに投票があり順位が上ったものほど下に置かれるというルールみたいです。