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Klub vrahů

(処刑人クラブ)

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〔解 説〕

 『処刑人クラブ』はあなたの心をゾワゾワさせるスリラーだ。最初は緊迫したストーリーの推理小説だと思って読み進めていると、それがやがて万力で締めあげられるようにじわじわエスカレートしていき、読む者をつかんで離さない。人とつきあうより本を読むのが好きという主人公の平穏な人生が、たった一度の出会いによってハラハラドキドキの奇譚に変わってしまう。善良でおとなしい男が見知らぬ他人の車を問答無用に壊すのはなぜか。倒れている男を見おろす自分の拳が血まみれなのはなぜか。自分の人生を自らの手で台無しにしてしまうのがいかに簡単で、しかもそれが最高の選択という羽目に陥ったら。斬新なアイディア、予期せぬ展開、映画的な語り口、そして様々なジャンルのクロスオーバー、これらがあなたに忘れられない読書体験を保証する。​  (裏表紙の内容紹介より)

著  者:パヴェル・レンチーン

     Pavel Renčín

表紙絵:ミラン・マリーク

     Milan Malík

発行年:2018年

出版社:Argo

頁  数:304

 ISBN  :978-80-257-2604-4

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〔Neklan 一言〕

 チェコ人作家のなかで Neklan がイチオシにしているパヴェル・レンチーンの長編第九作は、初めてファンタスチカではなくスリラーです。

​ 前作 Vězněná(囚われの少女)が優れたホラーだったので、新作がスリラーだと知った時は「彼はこの先、ファンタスチカを離れてマイケル・クライトンのような広く大衆に受け入れられるエンタテインメント作家を目指すのだろうか?」という不安に加え、一抹の寂しさを感じました。

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 日中はコールセンターのオペレーターとして怪しげな保険勧誘の電話をかけ続け、夕方以降は書店で働くアダムは孤独な本の虫。彼の人生は驚きも興奮もない平々凡々としたものだったが、ある晩、アダムは電車で見かけた美女にひとめ惚れをし、自分でもびっくりなことに彼女のあとについていってしまう。日が暮れた公園の森でアダムは彼女を見失うが、そのすぐそばで木に縛りつけられ血を流している男を発見する。あの美女がこんなことをやったのか? 彼は警察に通報してその場から去るが、女性と事件のことがどうしても気になり、ひとりで調査を開始する。

 今まで読んだミステリの数々から得たノウハウをもとに調査を進めるアダム。意外なことに、これがそこそこの成果をあげていく。そんなある晩、アダムの部屋に電車の美女が忍び込んでくる。自分のあとを追っている者がいることに気づいた彼女が、アダムにその目的を問い質しに来たのだ。

 危険な香りを漂わす美女ディアナ。アダムの説明を聞いた彼女は、彼の調査手腕に感心し、自分がやってることを手伝わないかと誘う。ただしそれはあくまで彼女の活動の助手としてであって恋愛はなし、質問もなし。それでもアダムはその申し出を喜んで受ける。だがディアナがアダムに命じたのは、車のタイヤを四輪すべてパンクさせたり、見も知らない男を殴ったりと、危険をともなう(そして違法)とはいえ冴えない行為ばかり……

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 危険な香りのツンデレ美女が出す無理難題にふりまわされる軟弱男という設定は、日本の漫画やライトノベルで使い古されたものだけど、チェコではこれが斬新なのか? どうしたレンチーン? 読む前から既に不安だったのが、このような展開に不安はいっそう募るばかりではないか。

 ところが、これが非常に面白い小説なのです。まず登場人物が活き活きと描かれている。主人公とヒロインはもちろん、アダムの同僚や姉と、その数は決して多くないものの、彼らのやりとりを読んでるだけでも楽しく、物語に引き込まれてしまいます。

「このまま軽いコメディ・ミステリとして終わっても、これはこれで楽しいから許せるかなぁ」とこちらが油断していると、突然ドバドバーッ(笑)。アダムとディアナが忍び込んだ大邸宅が血の海……。「あ~、やっぱりレンチーンはレンチーンであったか」と嬉しくなったり、安心したり。でも「そうすると、この作品はどんな終わり方にするのか?」と不安にもなったり。

 前作 Vězněná のトンデモ展開に驚愕した Neklan としては、強い警戒心を抱きながら読んでましたので、正直、結末の予想はつきました。ミステリを読み慣れている読者ならおそらくそうだと思います。

 Klub vrahů はチェコのどの読書サイトでも80%以上という高い支持率を得ていますが、プロの書評家のなかには「結末が予想できる」という理由で酷評しているものも(極少数ですが)ありました。しかし、これはいささかアンフェアな感想で、たとえアレが予想できたとしても、その手前の、クライマックスに至るまでの展開は予想できたはずがありません。それぐらいトンデモナイ展開なのです。

​ そして何より、いかにもレンチーンらしいと Neklan を喜ばせてくれたのは、この作品をミステリとして小奇麗でこじんまりと着地させるのではなく、彼がこだわり続けている《「物語」が「現実」を侵食する》というモチーフが、主人公アダムの「本の虫」という設定によって、最後の最後で「現実」と「物語=想像力」がクルリと入れ替わってしまうという、切れ味鋭い、そしてファンタスチカ的な着地になっている点です。そう、彼はやはり根っからのファンタスチカ作家なのでした。

 圧倒的な迫力で読む者を打ちのめした Vězněná ほどの剛腕ぶりが際立つ傑作ではありませんが、Klub vrahů はエンタテインメント作家としてのレンチーンの成長が見てとれ、この作家が今後もチェコの読書界の大きな台風の目であり続けることを予想させる佳作でした。

 でも次作は純粋なファンタスチカにして欲しいぞよ(2021年10月に出た三年ぶりの新作 Žabarádi(かえるのトモダーチ)はなんと、蛙が主人公の幼年児童向け絵本です)。 

〔日本語訳〕

アホイ、読者のみなさん。パヴェル・レンチーンといいます。

10月18日に発売されるわたしの新作をみなさんに紹介できるので、とても喜んでます。

​これは前作 Vězněná(囚われの少女)、そしてこちらがまだほやほやの新作 Klub vrahů(処刑人クラブ)です。

ホラー趣向の強い血まみれスリラーですが、同時にミステリやユーモアといった多種多様な要素がつまっていて、とても楽しんで書けました。

本が好きで好きでたまらない本の虫である主人公のアダムは、わたしによく似てます。彼はある事件が発端となって暴力や憎しみ、不気味な出来事でいっぱいの巨大な渦に巻き込まれ、人生が大きく変わってしまう、どぎつい冒険譚です。

そして、正気と狂気、日常と冒険の間に横たわる細い境界線を描いた作品です。

わたしは書いててとても楽しかったので、皆さんにも楽しく読んでもらえたら嬉しいです。

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