Meta
(メタ)

著 者:パヴェル・バレシュ
Pavel Bareš
表紙絵:アンドレイ・ネハイ
Andrej Nechaj
発行年:2020年
出版社:Host
頁 数:336
ISBN :978-80-275-0242-4
〔紹 介〕
人間を超えた能力を持つ者たちは確かに存在する。だが彼らの誰ひとりとしてスーパーヒーローではない。21世紀の初頭ともなれば、ぴっちぴちのスーツやマント姿で夜ごと犯罪者を狩る狂信者はお呼びでないのだ。ショウビジネス化されたスーパーヒーローには誰もが飽き飽きしている。
「メタ」と呼ばれる超能力者たちが世界的なセレブ扱い――もしくは国家の敵として指名手配――される世界において、レンカ・クシージョヴァーはそのどちらになりたいとも思わない。彼女の望みは、大学をドロップアウトしたい、扶養手当をパッと散財してみたい、たまには試験の友だちを自分の変身能力で助けたい、そんな女の子だ。名声やファンなんて欲しいと願ったこともない。それなのに、どうやら彼女にはファンがひとりはいるみたいなのだ。
〔Neklan 一言〕
本書はチェコ・ファンタスチカのWEB誌SARDENがチェコとスロヴァキアの作家・翻訳家・評論家・編集者に、2020年に出版されたジャンル作のベスト3アンケートで第1位(アンケート結果はこちら)。ファンタスチカ専門のデータベース LEGIE で支持率88%。書籍データベース Databaseknih.czでも88%。goodreadsの読者採点では5点満点で4.63と、専門家と読者の両方から高い支持を得た作品です。
新鋭パヴェル・バレシュ Pavel Bareš はデビュー作『Projekt Kronos』(2017)で既に注目されていましたが、三作目の本作で早くもその才能を開花させたと、近年のチェコ・ファンタスチカ界の話題を席巻しました。
上記紹介にもあるように、この作品では超能力者は「メタ」と呼ばれ、その存在も社会的に認められています。ただし、メタは当局に登録しなければならず、登録後、運に恵まれてメタ関連のビジネスでセレブになれることもありますが、未登録の者は犯罪者として追われます。
この作品の主人公兼語り手のレンカは女子大生で未登録のメタです。彼女の超能力は顔や体の形を自由に変えられること。といっても『サイボーグ009』の007や「スター・トレック ディープ・スペース・ナイン」のオドのように一瞬で変身できるのではなく、手で体や顔のあっちを押しこっちを押しと何分も時間がかかるやつで、粘土をこねて塑像を作りあげていくのに似ています。
設定はあきらかにアメコミ『X-MEN』の影響がうかがえますが、バレシュはスーパーヒーローが世界を救うという使い古された展開ではなく、日常レベルに話をとどめます。上記の変身方法が冴えないのにもそれがよくあらわれていると言えるでしょう。
日常的な話を面白く読ませるのには文体が重要ですが、バレシュはそれに成功しています。彼自身はまだ二十代の男性なのに(1994 年生まれ)、同世代の女性である主人公の喋り方や考え方が活き活きと描写されていて実に魅力的。「今のチェコの若い女性は確かにこんな感じ」と思えるほどにリアルです。
余談ですが、『Meta』のオーディオブックがあると知ったので、読むスピードを上げるためそれを購入し、聴きながら文字を目で追うというやり方に変えました。すると、女優(クリスティーナ・ポドズィムコヴァー Kristýna Podzimková)の演技が上手いせいもあるのでしょうが、登場人物が何倍も魅力的に思えてきたのにはびっくりしました。日本人のぼくでさえそうなのですから、チェコ人にとってのこの作品は本当に身近に感じているのでしょう。
話が日常的と言っても、物語の中核となる謎はもちろんあります。レンカは自分の超能力については両親とルームメイトで親友のデビにしか打ち明けてないにもかかわらず、それを知っている謎の男があらわれ、彼女にストーカー行為をはたらくようになるのです。
ストーカー対策に苦慮しながら、デビのためにおこなった替え玉受験がバレて二人とも大学を退学させられそうになったり、うまく行かない母との関係に悩んだり……。
こうした話の展開は決してつまらなくはないのですが、冒頭に書いたように大変評価の高い作品ですから、こちらの期待度もそれに応じたものにならざるをえず、「そんな面白い?」と、読んでる間、感じてました。
日本SFには、古くは平井和正さんの『超革命的中学生集団』や吾妻ひでおさんの『ななこSOS』、近年では若杉公徳さんの『みんな! エスパーだよ!』等、日常の中で自分の欲望のために超能力をせこく使う者を描いた作品がありますから、特に目新しさを感じなかったのかもしれません。
結局、「そこそこ面白いけど……」という思いで読み終えたのです。
チェコでは絶賛の声ばかり目にするのに、批判したものはないかと書評をいくつか読んだところ、fantasya.czに掲載されたラジム・チェルヴェンカ Radim Červenka のレビューがぼくの言いたいことに近くて、「そうでしょ。そうなんだよ」と思ったので、以下長くなりますが、引用させていただきます。
「読みすすめるうち、読者は本筋から離れた部分であれこれ挿入される作者の思索に引き込まれてしまう。普通の文体からジャーナリスティックなエッセイ調にふいに切り替わるので、それが主人公の考えなのか作者自身のなのか、区別がつかない。この点バレシュは失敗を恐れずに巧みに書いたと思う。こうした文体の使い分けはプロットの中でスパイスとして効いている。
しかし、本筋のストーリーはそれほど盛り上がらない。また、登場人物が主要な二、三名だけしか活き活きと描けていないというのも作者の経験のなさが露呈しているといっていい。ふくらみに欠ける展開の中、彼らはぶつかりあうが、全体的に単調なのでクライマックスもハラハラドキドキの結末を迎えるというわけにはいかない。
とはいえ既に述べたように、本書は魅力的なアイデアと今の世界の若者たちに対する作者の考察で成り立っているため、凝った、ひねりのある展開にするとせっかくの長所が失われてしまうのは間違いなく、それを避けたのは極めて賢明であったといえる。将来バレシュが、その挑発的なスタイルと独創性とが考えぬかれたストーリーと巧みに混じりあった傑作を発表しても驚きはしない。彼の頭にはもう白髪の二、三本もあるかもしれないけれど、文芸評論家たちはまだしばらくは《若手作家》あつかいするだろう」
(以上引用終わり)
そういえば、レビュワーのなかにはこの作品をヤングアダルト(← 死語?)向け小説と見做している人もいました。
いずれにせよ、パヴェル・バレシュがチェコ・ファンタスチカ界期待の新星であることは間違いなく、今後も追尾していきたいと思っています。