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Naslouchač

(耳をすます者)

著 者:ペトラ・ステフリーコヴァー

    Petra Stehlíková

表紙絵:アンドレイ・ネハイ

    Andrej Nechaj

発行年:2016年

出版社:Host

頁  数:374

 ISBN  :978-80-7491-383-9

〔解 説〕

 真実と希望がほとんど忘れさられた魅力的な暗黒世界が舞台のチェコ製オリジナル・ファンタジィ。

 《大戦争》は世界を居住可能な地域と有毒ガスに冒された地域の二つに分断。居住可能な半分は《玻璃》と呼ばれる鉱物から抽出されたエネルギーによるシールドで防護されていた。シールドの周辺には《玻璃》採掘の技能を持つ唯一の存在《玻璃師》たちが暮らしていた。そこに生きる者は多大な犠牲を払わされており、シールドのエネルギー・フィールドは彼らに中世レベルの生活を強いるのみならず、隷属状態におかれた低階層の者たちは《玻璃》の採掘作業に従事することで重い病におかされ、外見が醜く変貌していたのだ。

 そうした畸形なしに生まれた数少ない一人、十三歳の少女イランは類稀な能力までも授かっていた――彼女は《玻璃》の声が聞きとれるのだ。家族からひき離されないよう彼女は幼い頃から男の子のふりをし、《玻璃師》たちが隷属の証として身につけるマスクとローブの下に本当の姿を隠していた。彼女にはその能力のおかげでよりよい人生をおくれる可能性がある――彼女は《玻璃研磨師》として学べるかもしれないのだ。

 一方、シールドのむこうの汚染された大気によって生まれた危険な生き物たちから《玻璃師》の町を守る《二十五人隊》の隊長が彼女をその能力ゆえに徴用しようと画策。《二十五人隊》の隊士たちの前では自分の秘密を隠しとおさなければならないとイランにはわかっていた。彼らは味方ではないし、《玻璃師》が生きようが死のうが彼らにはなんの意味もないのだから。それともそれは彼女の誤解なのだろうか?

                  (Host 社の紹介より)

                      

〔Neklan 一言〕

 チェコ・ファンタジィの主流であるコナン・タイプのマッチョ冒険譚ではなく、表紙絵も繊細で魅力的、書評での評価もかなり高いということで、とりあえず購入。

 テクノロジーの恩恵にあずかっている富裕地域がある一方で、彼らの奴隷として中世レベルの暮らしをしている汚染・貧困地域の二つに世界が分断されているという設定は、今のこの世界の構図をもろに象徴してますし、エネルギーを得るための危険な鉱物採掘は原子力発電を思わせる等々、設定面においていろいろ不安はあるのですけど、ジーン・ウルフの《新しい太陽の書》五部作のようなアッと驚く捻りがあればいいなぁとか、ル=グィンの《西のはての年代記》、あるいは『風の谷のナウシカ』のような作品であってくれてたら嬉しいと期待しています。

 作者のステフリーコヴァーは、過去に自費出版で数作、作品を発表したことはあるそうですが、本格的な商業出版はこれが初めての新人です。ただし、出版元のHost社も力を入れているようで、力のはいった紹介文からも作品への期待がうかがえます。

 因みに、この本を購入したことをFBを通じて著者本人に伝えたところ、「わたしのためにお金を出してくれてありがとう。あなたを失望させることは多分ないと思う」という、控えめながら自信に満ちた返事をもらいました。

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(以下、読後の感想)

 じぇじぇじぇっ! これは面白いではありませんか。

 Neklan はチェコ・ファンタスチカに対し、英米の作品とは違う変化球や捻りを無意識のうちに求めていると思うのですが、これはストレートに面白い。これまでチェコのスペースオペラや異世界ファンタジィをいくつも読んできた Neklan にとっても、ここまでド直球で面白いのは初めてかもしれません。

 先にNeklanはこの作品に対し、「ジーン・ウルフの《新しい太陽の書》五部作、ル=グウィンの《西のはての年代記》、あるいは「風の谷のナウシカ」のような作品であってくれてたら嬉しい」と書きましたが、予想を遥かに超える面白さです。

 謎に満ちた世界で、自分の性別を隠している超能力少女が、エリート戦士たちと友情を育みながら、その謎と対峙していくとは、まるでラノベのようですが、ラノベというよりも「よくできたジュヴナイル」という印象で、実際チェコの書評の中にはヤングアダルト(YA)作品とみなしているものもありました。その意味ではル=グウィンの《西のはての年代記》を思ったのは「当たらずといえども遠からず」かもしれません。

 世界の本当の姿が薄皮を一枚一枚剝ぐように明かされていくので、何を書いてもネタばらしになってしまい、書けないのがもどかしい。

 この Naslouchač(耳をすます者)シリーズは2017年に第二部 Faja(ファーヤ)が、そして2021年に第三部 Nasterea(ナステレア)が出版されています。第一部ではまだ十三歳で、《玻璃研磨師》の見習いにすぎないイランですから、《玻璃》の声が聞きとれるという超能力を縦横無尽に発揮するところにまでは至っていません(危険が迫っているのを感じ取り、《二十五人隊》の隊士たちに警告を発したりはしますが)。この能力が今後どのように使われるのか、そしてまた、彼女が女であることがいつ、どのような形で仲間たちに知られてしまうのか、興味津々です。

 しかも、二巻への引きが実に見事で、読んでいて「え~、そこで終わるの!」と声が出そうになったほど。これでは続きを絶対買ってしまいますよ。

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